想像してみて下さい。二階建ての新しいお家を作っています。外壁は二重のレンガで、窓枠だけ入っています。床の基礎はもう当然入っていますが、まだコンクリート打ちっぱなしです。階段はまだありませんが、階段ができる場所に斜めの木の板が嵌めてあって、そこから垂直に木の板が階段のステップになるべく平均台みたいに打ち付けてあります。外壁の外側にはまだ足場が組んであって、2階まで梯子がかかっています。梯子からか、階段が出来る前の平均台みたいな木材を登って、足場に囲まれた2階部分に出ると、鉄の棒が針金で組み合わされています。その30cmほど下にも同じように鉄の棒が針金で組み合わされていて、さらにそのすぐ下に黒い木の板が張られています。この鉄の棒の上からコンクリートを流し込んで、固まったら1番下の黒い木の板を取り除くと、1階部分の天井と2階部分の床ができます。いわゆるコンクリートスラブです。
外壁についているMain Switchboard(メイン配電盤)から、家の真ん中あたりのSub Board(分電盤)までメインと同じ太さのケーブルを引かないといけないのと、その他1階部分の電灯や火災報知器の配線はこのコンクリートスラブの中を通さないと行けないので、コンクリートを流し込む前にケーブルを通る道を作ってやらないといけません。あとからコンクリート掘るわけにもいきませんので。それがこの日の仕事。
このケーブルの通り道をどうやって確保するかというと、塩ビパイプです。こちらではPVC Conduitなんて呼んでます。サイズは様々ですが、基本的に電気工事で使うのは直径が20㎜、25㎜、32㎜がほとんどです。地面より上に設置する場合はほぼグレーの塩ビパイプを使います。地下を通す場合はオレンジを使います。この塩ビパイプを曲げたりしながら先ほどの鉄の棒を組んだ基礎部分を通して、ジョイント部分の発泡スチロールにぶっ刺していきます。この発泡スチロールはコンクリートが固まってから壊してケーブルを通していきます。先にケーブルを通しておかないのは、コンクリートの重みで塩ビパイプが曲がったりしてケーブルを傷つけたりというトラブルを避けるためです。


画像を見た方がイメージ沸きますね。この鉄骨がコンクリートスラブの骨組みとなっていて、その中を塩ビパイプが通っています。コンクリートを注いで乾いた後で改めてこの塩ビパイプの中をケーブルを通していきます。設計図を見ながら、どこにスイッチボードがあって、どこにライトがつくか、火災報知器がつくか、データポイントがあるかなど細かくチェックしながらケーブルの通り道を確保していきます。普通の西オーストラリアで使われている建築法式の木材の骨組みに石膏ボードを張り付ける天井のお宅の場合は屋根裏スペースがあるのでこのような手間はかかりません。もちろんケーブルを固定したり色々はルールがありますがここでは割愛します。
このコンクリートスラブのお家で注意しなければいけないのは、コンクリートを入れた後に新しくケーブルを違う場所に通すというのはほぼ不可能ということです。念のため何本かはスペアで塩ビパイプを通したりはしておきますが、設計図にない場所に塩ビパイプの穴を出すわけにもいかないので、スラブ内に新たな場所に後から追加、というのはほぼ不可能だと思っておいてください。コンクリートスラブを使ってお家を建てている方は要注意です。
簡単にライトの回路の準備に関して細かく説明しておくと、まずは外のグリーンドームと呼ばれる、電力会社から供給された電源を家のメインスイッチボードへケーブルを引いて持ってきます(これは専門の業者がやることがほとんどです、さらに電力会社への手続きが必要)。このメインスイッチボードがある壁の上からライトがある位置へ塩ビパイプを通します。同じスイッチで点灯・消灯するライトがあれば同じように塩ビパイプを通していきます。ライトが入る位置にカップのようなプラスティックの入れ物がはいっていて、そこに塩ビパイプを刺しておきます。このカップはコンクリートは入り込まないのでこの位置に後ほどライトをいれます。全部のライトの位置に塩ビパイプが繋がったら、今度はスイッチが入る壁に一番近いライトからスイッチの位置の真上の壁の中まで塩ビパイプを通したらライトの回路の準備は完了です。西オーストラリアの典型的な建築では外壁は2重レンガになっていて、レンガとレンガの間にはスペースが開いているのでここにはケーブルが通せます。なのでこの壁の中に関しては塩ビパイプは通さなくても後からいくらでもケーブルは通せます。※ただし直流電流を通すケーブルに関しては壁の中でも塩ビパイプを通さなければいけないという法律があります。通常の回路に関してはすべて交流電流が流れています。この直流電流ルールはソーラーパネル導入の際に主に適用されます。
コンクリートスラブの天井のお家にあとからライトを追加するのはほぼ不可能、と書きましたが、例外もあります。コンクリートにケーブルを通る溝を掘りこむのが1つ。そしてもう一つは、コンクリートスラブに石膏ボードをつけて天井にする場合です。ただしこの場合はコンクリートと石膏ボードに隙間があることが必須条件ですが。こうすればケーブルの通り道も確保できますし、石膏ボードなのであとから穴を開けるのも簡単です。ただケーブルをこの限られた隙間をうまく所定の場所まで通すのはかなり難しい作業になりますが。コンクリートスラブでは設計の段階でかなり吟味・熟考が必要になりますね。
ということで、今回は長くなりましたが以上がコンクリートの中のケーブルの通し方、でした。参考にはあまりならないと思いますが、興味がある方、不思議に思われていた方の疑問を少しでも解決できたなら幸いです。最後までお付き合い頂きありがとうございました。ではまた。

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